希世子「おっかえり〜! そしてェ……水臭いじゃな、い、のォ!」
 
あかり「え?」
 
 
 
沢登先輩を今度こそ送り出してから室内に戻ると、
 いやにニヤニヤした友人が生暖かく迎え入れてくれた。
 
 
 
 
或るTHSCの日常。4
 
 
 
 
希世子「一連の動き、押さえさせて頂きましたよ西村先生ェ! いやァ、まったくなんと言っていいやら……」
 
あかり「え? な、何のこと?」
 
希世子「このこのォ、とぼけちゃって! マ、沢登先輩は苦手だけど、応援はするわよ?」
 
あかり「あ、……もしかして、さっきの……」
 
 
 
背筋を冷たいものが一筋走る。
 
 
 
希世子「……見させていただきましたとも。ばっちりね!」
 
あかり「あ、あの、別に沢登先輩いつもあんなんじゃないからね?!」
 
希世子「いや、いつもあんな感じだったと思うんだけど……ねェ、ユキィ?」
 
有希「ふふ。沢登先輩がいつもと同じかはわからないけど……、でも、おめでとう。あかりちゃん」
 
 
 
うおおおお……改めていわれると、かなり恥ずかしい。
 
 
 
あかり「あ、いや、別にそんな大層なことでも……」
 
希世子「大層なことに決まってるデショ?! あの沢登先輩の彼女になるなんて!!」
 
あかり「き、キヨコちゃん……あの、あまり大声で言わないで……ね?」
 
希世子「照れるな照れるな! もうねェ、沢登先輩のあかりを見る目!
 なんていうんだろう、飼い犬をやさしい表情で見守るご主人様みたいな?」
 
あかり「い、犬……?」
 
希世子「そう! 犬!」
 
あかり「…………」
 
希世子「……ん? あかりサン? どうされました?」
 
あかり「……やっぱり沢登先輩って、私のこと動物感覚で見てるのかな……」
 
希世子「え?」
 
有希「キヨちゃん……」
 
希世子「あ、あかり? さっきのはそういう意味じゃないのよ? 例えよ?」
 
あかり「……そっか……人として見られてないんだ……」
 
希世子「違うってば! 本当、大事なもの見る目ってああいう感じなんだなっていう意味で……」
 
あかり「犬にしたって駄犬なのに……本当、私のどこがいいんだろう……」//駄犬よりはハイブリット?
 
希世子「ごめんってばァ!」
 
有希「もう、ダメじゃないキヨちゃん。不安がらせたりしたら……」
 
希世子「ぅ……で、でもォ、どう見たって沢登先輩はあかりのこと大好きに見えるじゃない!
 あかりもそれが分かってると思ってたんだけど……」
 
有希「それでも不安なものは不安なのよ」
 
希世子「そうねェ……こんな何かを真剣に悩むあかりなんて、あんま見たことないもんねェ」
 
あかり「うぅ、それって酷いよ……」
 
希世子「褒めてんのよ! ……いっちょまえに恋愛しちゃってるんだネ?」
 
 
 
にこっと笑う希世子ちゃん。
そう思われてたのか! かなり恥ずかしい……。
 
 
 
あかり「ごめんなさい。私の負けです……もう悩みません」
 
希世子「おっし、逆転勝ち?」
 
有希「調子に乗っちゃダメ」
 
希世子「はァ〜い」
 
あかり「ふふふ……」
 
 
 
希世子ちゃんは、沢登先輩が苦手らしい。
理由を聞いてみたけど、それはかなり漠然としていた。
つまり、生理的に受け付けない。というタイプなのかも知れない。
 
だけど、私の為に応援してくれるなんて嬉しいことを言ってくれる。
あ、本当二人と友達でよかったなぁ……。
 
 
 
田町「おや、なにやら恋やら愛やらのお話かい? それだったらこの田町仁(めぐむ)様が軽くレクチャーを」
 
希世子「ウザッ!」
 
田町「速攻?!」
 
有希「もう、キヨちゃんったら……」
 
あかり「キヨコちゃんいつも田町くんに冷たいよね……」
 
希世子「え? ウザいじゃないコイツ」
 
田町「ウザいとかいうなよッ! 俺のフルネーム初めて出たんだぞ?! という訳で、仁くんをヨロシクぅ!」
 
希世子「はいはい、じゃあウザがらないからどっか行って」
 
田町「シクシク……」
 
希世子「ふゥ! 清々した!」
 
 
 
とぼとぼと帰っていく田町くんの背中に、キヨコちゃんは本気ですがすがしそうな笑顔を向けた。
 
 
 
あかり「田町くんかわいそう……」
 
有希「キヨちゃんも、自分のこととなると途端に鈍くなるのよね」
 
あかり「え?」
 
三橋「そうそう。あんなに田町分かりやすいのにね〜」
 
あかり「え? え?」
 
「はい、みんな席に着きなさい。授業を始めますよ」
 
三橋「ちなみに私の名前は襟佳(えりか)でーす。よろしくね〜!」
 
「三橋さん、席に着きなさい」
 
三橋「……はい」
 
 
 
なんだろう……私も希世子ちゃん同様、分かってない組の様である。
……後で有希ちゃんに聞いておこっと。
 
 
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