内沼「ねー、西村しつもーん」
 
あかり「はい、何でしょうか内沼先輩」
 
 
 
放課後。
沢登先輩に指示を受けた通り、私は風紀会議室に来ていた。
 
 
 
内沼「どーして西村はぁ、沢登なんかと付き合ってるのぉ?」
 
あかり「え?」
 
 
 
唐突なその質問に、我が耳を疑った。
実は私と沢登先輩が『付き合っている』ということは、
親友の二人はおろか、風紀の皆様にも言っていなかった事実なのだ。
 
 
 
あかり「あ、あの、私と沢登先輩が付き合ってるって知って……」
 
内沼「うん、付き合ってるんだよね?」
 
 
 
別に隠していた訳じゃない。
……言い出すきっかけが掴めなかっただけで……。
 
 
 
あかり「あの、本当その通りなんですけど……でもその、決して隠してた訳じゃ……」
 
内沼「ほらー、当たったじゃんノリちゃん。俺の勝ちねー」
 
乃凪「え? マジで?」
 
内沼「マジマジ、大マジ」
 
 
 
そんな私の懺悔なぞ知らず、やけにはしゃいでる先輩方。
 
 
 
あかり「あのお……?」
 
内沼「あ、おめでとう西村!」
 
あかり「あ、はい……」
 
 
 
釈然としない会話の流れに、ついつい首をかしげる自分。
 
 
 
「失礼します」
 
内沼「あ、匣匣! 賭けは俺らの勝ちッ!」
 
「ああ、西村さんのですか? あんなの見てれば一目瞭然じゃないですか」
 
内沼「だよねー。まったくノリちゃんと和原は見る目が無いんだよ」
 
乃凪「そんなこと言われてもなぁ……」
 
内沼「人が言ってることを信じられないなんて……相当悲惨な青春時代を送ってきたんだね……」
 
乃凪「今、現在な」
 
あかり「あ、あの……ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」
 
内沼「うん、なあに?」
 
あかり「あの、私が沢登先輩と付き合ってるの、知ってた……んですよね?」
 
内沼「あー、あのね。確証は無かったんだけど、そんな感じはするなーって程度には思ってたよ?」
 
あかり「そ、そうなんですか!?」
 
乃凪「鎌かけてごめんな」
 
あかり「い、いえ……私の方こそ、ご報告が遅れまして……」
 
 
 
そっか……内沼先輩にはばれてたのか……。
うう、そう思うと恥ずかしい……。
 
 
 
乃凪「ま、おめでとうって言っていいのか分からんが……とりあえずおめでとう」
 
あかり「え? あ、はい……」
 
 
 
乃凪先輩が、曖昧な笑顔で私を祝福してくれる。
整った顔立ちに少し入る哀れみのこもった目……に、見えるんだけど気のせいなのかな?
 
 
 
内沼「だよねー。相手があの沢登じゃあねぇ……」
 
「まあ、蓼食う虫も好き好きって言いますからね」
 
 
 
ああ、そういう意味か……。
相手が相手だから、みんな素直に祝福できないみたいです、先輩……。
 
 
 
 「しっつれいしまーす!」
 
 
 
ほんのちょっぴり凹んでいると、元気よく戸を開ける声が聞こえた。
あれ、この声って……。
 
 
 
乃凪「よぉ、和原。俺らの負けみたいだぞ」
 
和原「あ、例のやつですか? って、西村さんいるじゃん」
 
あかり「あ、うん。え、えへへー……ごめんね、黙ってて」
 
和原「いや、俺らこそごめん。賭けたりして」
 
あかり「ううん。別にそれは構わないけど……」
 
 
 
私としては、もうそんなことはどうでも良かった。
それより、和原くんが来たことに驚いていたり。(失礼)
 
 
 
和原「どうしたの? 西村さん。俺の顔に何かついてる?」
 
あかり「う、ううん? なんでもない」
 
 
 
でも、そんなこと聞くのなんて失礼だよね。
せっかくこうして来てくれてるんだし。
 
 
 
内沼「でもー、本当思い切ったことしたね、西村は」
 
あかり「え?」
 
内沼「いや、沢登と付き合うなんて、並大抵の覚悟と決心がないと出来ないだろうなって」
 
あかり「そ、そうですか?」
 
内沼「そうだよ。だって、俺がもし女の子でも沢登とは付き合おうなんて思わないよ?」
 
「同感ですね」
 
和原「うんうん」
 
あかり(う、女の子のみならず、男性にも先輩人気ないのか……)
 
 
 
そんな事実に、再びちょっぴり凹んでしまったりした。
 
 
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