あかり「で、でもいいところもあるんですよ?」
 
内沼「あー、それってアレだよ、ラブフィルターってやつじゃない?
百年の恋も冷めてみなよ。
実際はチャームポイントだと思ってるところが欠点だったりするんだな、これが」
 
あかり「そ、そうなんですか?」
 
乃凪「おいおい内沼。西村脅かしてどうするんだよ」
 
内沼「じゃあノリちゃんは自分が女の子だったら沢登と付き合える?」
 
乃凪「それは……女の子になってみないと分からないだろ。西村の言うとおりかもしれないし……」
 
 
 
 
或るTHSCの日常。6
 
 
 
 
内沼「ノリちゃん、大丈夫? 頭悪いの?」
 
乃凪「頭悪いのはお前だ」
 
内沼「だって、あの沢登と結婚してもいいなんて……」
 
乃凪「脳内変換にも程があるな。大丈夫か? いい病院紹介するぞ?」
 
和原「お二人とも、一応西村さんの前ですからね?」
 
あかり「はは……」
 
 
 
本当です。
もう、乾いた笑いしか出て来ません。
 
 
 
あかり「はぁ……それにしても沢登先輩来ませんね……」
 
「来ないんなら来ないで召集なんてかけないで欲しいよね」
 
あかり「ご、ごめんね。匣くん……」
 
「別に西村さんが謝る必要はないと思うけど……」
 
和原「馬鹿だなぁ耕介。西村さんはもう沢登先輩と一心同体なんだよ」
 
あかり「い、一心同体……?」
 
「ああ、内沼先輩と乃凪先輩みたいな仲ってことか」
 
 
 
ものすごく納得した声を出した匣くんに、問いたい。
私と沢登先輩が、内沼先輩と乃凪先輩のような関係に見えるのかと。
 
 
 
乃凪「残念ながら、俺と内沼は沢登と西村のような関係ではありません」
 
 
 
そうですよね……って、ん?
誰か残念がる人がいるんですか?
 
 
 
内沼「俺だってやだよッ! こんなむさくて毛も生えてないような男ッ!!」
 
和原「それだと内沼先輩は毛が生えてたらOKという風に聞こえますね」
 
内沼「そんなのもっとやだよ」
 
 
 
確かに嫌ですね。
 
 
 
乃凪「その前に俺のイメージはむさいのに毛が生えてないのか?」
 
内沼「そんなの知らないよ。自分で考えたら? こっちは今忙しいんだから」
 
乃凪「…………」
 
 
 
ああ……乃凪先輩が悲しそうな目をしてる……。
 
 
 
「どうでもいいですけど、馬鹿に見えますよ、先輩たち」
 
内沼「なによこの球体男ッ!
 自分だって途中まで乗ってたくせに、一人だけ可愛い子ぶってんじゃないわよッ!!
あんた女の子の前だからってそういう話題したくないだけで、本当は好きなんでしょう?!
このピュアリスト気取りッ! メンタルラブだけじゃ人類は救えないのよ!!」
 
 
 
メンタルラブ……?
 
 
 
乃凪「“メンタルラブ → ×(不正解)”。“プラトニックラブ → ○(正解)”」
 
内沼「ちょっとあんたもそうよノリ男!! あんた達和原を見習いなさいよッ!」
 
和原「えッ?」
 
「この男のどこをどう見習えと」
 
内沼「……うんごめん。ちょっと勢いで言い過ぎた。特に見習うところないよね」
 
「寧ろ見習っちゃいけない代表だと思うんですけど」
 
内沼「そうだよね。キモイよね」
 
和原「がーん!」
 
 
 
勢いで言い過ぎです、二人とも。
 
 
 
内沼「という訳で君達。君達が女の子で、もしこの世に俺か沢登しかいなくなったらどっちを選ぶ?」
 
乃凪「なにその唐突な究極の選択」
 
内沼「うるさいな! ほら、匣から答えてよ」
 
「舌噛み切って死にます」
 
内沼「うわあお潔いね」
 
和原「そのどっちかが実は雨宮先輩だったらどちらでもOKです」
 
内沼「欄外。お前の存在欄外ってことで」
 
あかり「えーと……」
 
内沼「あ、西村はいいよ。どうせ沢登選ぶだろうし」
 
乃凪「あきらめろ、内沼。お前も沢登も同じような感じだから」
 
内沼「ノリちゃんは?! ノリちゃんは俺を選んでくれるよね!?」
 
乃凪「……選ぶと思うのか?」
 
内沼「ノリちゃん酷いッ!! 俺ノリちゃんが女の子だったら結婚してあげてもいいのにッ!」
 
乃凪「気色悪」
 
内沼「馬鹿ッ! もう頼まれても結婚してあげないんだからッ!!」
 
乃凪「誰がするかッ!」
 
内沼「俺だってお断りだよッ!」
 
乃凪「お前が言い出したんだろうがッ!」
 
 
 
言い合いをしている内に、いつもの如く先輩たちはヒートアップしていく。
ああなると、はしゃいでいるときの沢登先輩のように、私たちの手には負えない。
 
 
 
「……どうしようか。なんかあの二人に付き合ってると疲れるんだけど」
 
乃凪「さりげに俺も含まれてる!!」
 
あかり「ははは……」
 
 
 
内沼先輩にツッコミを入れながら、乃凪先輩はこちらの話題にも器用に突っこむ。
さすが、ツッコミの鏡。我が風紀の一番の常人。
 
 
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