和原「でも珍しいよなぁ。沢登先輩確かにおかしい人ではあるけど、いい加減な人じゃないじゃない?」
 
あかり「……そうだね、何かあったら連絡くれると思うんだけど……」
 
乃凪「あ、もしかして誰かの携帯に連絡入ってるとか?」
 
 
 
ぴッ
 
みんなで一斉に携帯電話を確認した。
 
 
 
 
或るTHSCの日常。8
 
 
 
 
内沼「んー……俺んとこは入ってなーい。というかよく考えたら番号知らなーい」
 
乃凪「……そういえば俺も知らんな」
 
「俺も知りませんよ」
 
和原「以下同文」
 
桐島「君らは仲がいいんだか悪いんだか分からないね……」
 
「普通、委員会が一緒ってだけで携帯番号の交換なんてしないと思うんですけど」
 
あかり「私は知ってますけど……」
 
 
 
……というか、確か携帯ってまだ花邑先輩がもってるんじゃ……?
そういえば、沢登先輩からの電話って、大体家電だったような……。
 
 
 
内沼「もー、あの男はなにやってるんだよー。俺暇じゃないんですけどー」
 
「じゃあ、今日は解散にしますか? 俺、部活あるし」
 
内沼「……そーだね、お疲れー。俺らも帰ろうよ、ノリちゃん」
 
乃凪「いいのか?」
 
内沼「いいんじゃないの?」
 
あかり「…………」
 
 
 
沢登先輩、本当にどうしちゃったんだろう……。
さっきの弱々しい笑顔が、ふと脳裏をよぎる。
 
 
 
和原「……どうしたの? 西村さん」
 
あかり「え?」
 
和原「ううん、なんだか俯いてるから……」
 
あかり「……あの……私は沢登先輩が来るまで、待ってようかなって考えてたの」
 
内沼「待つの? 西村。でも、あいついつ来るか分からないよ?」
 
あかり「はい。でも……ここに来て誰もいなかったら寂しいかなって」
 
 
 
私が同じ立場だったら、確実に寂しい。
 
 
 
あかり「……待ちます。後は私が沢登先輩に説明しますから、皆さんには帰っていただいて……」
 
内沼「んー……どうする? ノリちゃん。俺、特に用事無いんだけど。待つ?」
 
乃凪「ああ、別にいいぞ。俺も何にもないし」
 
内沼「寂しい男……」
 
乃凪「おい」
 
あかり「でも……迷惑かかりますし……」
 
内沼「いいんだって! 暇するくらいなら西村と話してる方がいいし。ねぇ?」
 
乃凪「そうだな」
 
あかり「でも……」
 
「暇って言ってるんだから、いいんじゃないの? 俺は部活あるけど」
 
あかり「あ、うん。匣くんは部活の方に……」
 
「……とはいえ、俺も委員長にはお世話になってるから。今日くらい付き合うよ」
 
あかり「匣くん……」
 
和原「じゃあ、一応校内放送かけてもらって、それで少し待ってみる?」
 
乃凪「そうだな。さっきは大げさかと思ったけど、そっちの方が早いしな」
 
内沼「まったく、あの男も罪な男だよねー。俺らにこんなに愛されてるんだから」
 
乃凪「ははは、そうだな」
 
内沼「ノリちゃん気色悪いよ」
 
乃凪「そっちが言い出したくせに?!」
 
 
 
みんなのあったかい言葉と気持ちに、涙が滲んできた。
ここに沢登先輩がいたらよかったな。
きっと、口には出さないと思うけど、すっごく喜んだと思う。
 
本当に風紀のみんなが好きだから、沢登先輩は。
 
 
 
あかり「みんな……ありがとうございます」
 
乃凪「ま、そんな感謝される程のことじゃないよな。
よく考えたら俺ら沢登でつながってるようなもんだし」
 
内沼「だねー。ちょっと行き過ぎたところはあるけど根はいい奴だよ、沢登は」
 
「珍しいですね、内沼先輩が」
 
内沼「俺だって人褒めることくらいあるよ」
 
和原「じゃあ桐島先輩、お願いします」
 
桐島「了解。……沢登はいい仲間を見つけたね」
 
あかり「え?」
 
桐島「ううん、何でもないよ。じゃあね」
 
 
 
そういいながら椅子から立ち上がると、桐島先輩は廊下へと消えていった。
 
 
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