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匣 | 「そういえば、南先生から頼まれてた資料、誰か作ったんですか?」 |
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乃凪 | 「え? そんな話聞いてないぞ」 |
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匣 | 「そんな訳ないじゃないですか。みんながいたときに南先生、言ってましたよ?」 |
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内沼 | 「そうだっけ?」 |
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匣 | 「…………」 |
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| 風紀の仕事を影で支えているのは、匣くんだったりする。 |
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| 或るTHSCの日常。9 |
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| 沢登先輩を待ちながら、私たちは風紀の仕事をすることになった。 |
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| 私と匣くんは各委員会のと部活の顧問の先生に、 |
| “今年度の予算を何%使ったか”という聞き込みをする作業を任され、 |
| 匣くんが委員会の顧問の先生に話を、私が部活の顧問の先生に話を聞くという分担になった。 |
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あかり | 「さてと……次は演劇部か」 |
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堤 | 「あらん? お姉さま?」 |
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あかり | 「え? ……あ、堤くん!」 |
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堤 | 「よーっす。何やってんの? こんなところで」 |
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あかり | 「ん? 今ね、委員会活動の最中なの」 |
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堤 | 「まあ。精がでることで!」 |
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あかり | 「うん。堤くんはどうしたの?」 |
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堤 | 「俺? 俺は……」 |
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勅使河原 | 「千弦!! いい加減観念なさいッ!!」 |
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あかり | 「……えーと?」 |
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堤 | 「いやあ、もてる男はつらいねぇ……」 |
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勅使河原 | 「なに馬鹿なこと言ってるの!! あ、あら、西村さんこんにちは」 |
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あかり | 「こんにちは〜……」 |
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堤 | 「なんだよ勅使河原先輩。俺、今回の劇は降りるって言ったろ」 |
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勅使河原 | 「……堤くん、そんなわがまま言わないの」 |
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堤 | 「嫌なもんは嫌なんだよ。今回は先輩が全部やればいいじゃん」 |
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勅使河原 | 「千弦……」 |
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堤 | 「じゃあな、勅使河原先輩。行こうぜ、西村」 |
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あかり | 「あ、堤くん!」 |
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| 堤くんに手を引かれ、私は思いつめたような表情をした勅使河原先輩に失礼します、と一言告げた。 |
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あかり | 「あの、堤くん……」 |
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堤 | 「あ、悪い。委員会の途中だったんだよな?」 |
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あかり | 「ううん、それはいいけど……」 |
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| 無言のまま歩き出した堤くんに声をかけられないまま、私は屋上まで連れてこられた。 |
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堤 | 「はぁー……ったく、勅使河原先輩ってマジかてぇでやんの」 |
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あかり | 「どうしたの? いつもは京香って呼んでるくせに」 |
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堤 | 「ん? 嫌がらせ。 がーって感情的になってるあいつを“勅使河原先輩”って呼んでやると、一気におとなしくなるの」 |
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あかり | 「……本当、どうしたの? なんだか堤くんらしくないよ……」 |
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堤 | 「……俺らしい、って、なんなんだろうな」 |
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あかり | 「え?」 |
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堤 | 「京香も同じようなこと言ったよ。“今回の演出はあなたらしくない”って」 |
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あかり | 「……それが喧嘩の原因?」 |
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堤 | 「そ。馬鹿みたいな理由だろ? ……でも、俺にとってはそうじゃないんだ」 |
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あかり | 「……あのね」 |
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堤 | 「ん?」 |
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あかり | 「私の中の堤くん像は、楽しくて、優しくて、気が利く……かな?」 |
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堤 | 「へえ、結構好感度高し?」 |
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あかり | 「うん」 |
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堤 | 「じゃあ、俺と付きあってよ」 |
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あかり | 「え」 |
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堤 | 「……いいだろ?」 |
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| 急に真面目な顔で、堤くんが私に向き直った。 |
| 無駄のない動作で腕を持ち上げ、その指先で軽く唇をなぞられる。 |
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あかり | 「ッ……」 |
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堤 | 「……俺じゃ嫌?」 |
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あかり | 「つ、つみ……」 |
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堤 | 「なーんちゃってv」 |
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あかり | 「え……?」 |
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堤 | 「やっばい、どうしよう。俺天才じゃない?」 |
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あかり | 「堤……くん?」 |
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| 一人で異様に盛り上がってる堤くんを目の前にして、 |
| 私はヘタヘタとその場にしゃがみこんでしまった。 |
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堤 | 「あれ、お姉さま?」 |
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あかり | 「び、びっくりした……」 |
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堤 | 「あ、本気かと思った?」 |
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あかり | 「ぅ……恥ずかしいけど思ったよ……」 |
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堤 | 「いやぁ、俺の演技力もなかなかってとこかな?」 |
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あかり | 「もう……女の子にはこんなことしないほうがいいよ?」 |
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堤 | 「はいはい。じゃあ、男の子ならOK?」 |
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あかり | 「……止めはしないけど……勘違いされて、大変な目にあうのは堤くんじゃないの?」 |
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堤 | 「確かにな」 |
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| 悪びれる様子もなく笑顔を見せる堤くんに、私もつられて少し微笑んだ。 |
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あかり | (はぁ……。じゃあ、そろそろ仕事戻ろうかな) |
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堤 | 「大体さ」 |
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あかり | 「ん?」 |
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堤 | 「いや。大体、彼氏のいる女の子を口説く奴に見える? 俺が」 |
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あかり | 「……え?」 |
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堤 | 「だって、沢登と付き合ってるんだろ? 西村」 |
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あかり | 「……え?」 |
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| だ……誰からそれを?! |
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