顕のひめファンクラブ会報

第七回 : ひめひび1.5 (※第六話)



ミーとニャーを大和くんに面倒見てもらうことが決まった

留学の当日にミーたちを預けに行くことを約束して、あたしは部屋へと戻る

今度こそ留学の荷造りをしようと、部屋のドアを開けたとき------



【 忍 】 「お嬢様。荷造りの方は終わりました」

【 恋 】 「えぇ!? いくら何でも早くないですか月元さん!?」

【 忍 】 「そうですか? 私が普段している様に荷物を詰めただけなのですが」

【 恋 】 「そ、そうなんですか……」



……あたしは、改めて月元さんの偉大さを知ることになった





▼ 空港へ……お別れの朝



荷造りが終わったあとも、留学の準備は他にもたくさんあって……

寝るのとお風呂以外に、のんびり出来ることはほとんど無かった

そんな中、真亜耶にはメールでフランス留学のことを伝えることは出来た

天城寺学園に転校したときは、連絡を忘れてたから……今度はそうしないために

『フランスのカッコイイ人たちの写真をよろしく!』

……あたしが出したメールに、帰ってきた真亜耶からの返事

……予想はしてたけど、いつもと変わらない真亜耶に、思わずため息が漏れる

ただ、メール本文はそれで終わってなかったので、そのまま最後まで読んでみると

『今以上に恋ちゃんが遠くに行くから、

もう簡単には会えないね……寂しくなっちゃうな……』

寂しいって言葉に、あたしの胸が締め付けられる

真亜耶にはそうやって連絡したんだけど

クラスメートのみんなには、話をする時間を作ることが出来ないまま……

フランスに出発するまでの二日間は、あっという間に過ぎていった

------そうして今は、空港に出発する前の寮の玄関

見送りに来てくれた光くんたちと、留学前、最後の時間を迎えた

雅哉と尚仁先輩は、あたしと違って先にみんなと挨拶を済ませてたみたいで

空港まで行ってくれる、忍さんとおじいちゃんと一緒に、

車であたしのことを待っていてくれた

別れの挨拶の邪魔にならないようにって

天城寺学園に来てからというもの、

あたしの周りにはちょっと変わってるけど、

優しい人たちがいっぱいだって、改めて思った



【 林斗 】 「空港まで見送りに行くことが出来なくてごめんね」

【 恋 】 「いえ……夜の最終便で出発するあたしたちですし。 
      みんなに来てもらったら、それこそ悪いですから」

【 恋 】 「玄関前まで見送りに来てくれただけで、嬉しいです」

【 恋 】 「林斗先生、光くん、大和くん。
      それじゃあ、あたしは留学にいってきます」

【 光 】 「は、はい……。いってらっしゃいませ……恋様……」



目に涙を浮かべ、声を震わせながら挨拶する光くんに、あたしも思わず目頭が熱くなる

でも、ここであたしが泣いたら、きっと光くんも泣いてしまうので、

その気持ちをぐっとこらえて

頭をなでてあげて光くんを慰める



【 光 】 「あうぅ……すみません恋様……」

【 光 】 「恋様たちが戻ってこられるまでに……僕はもっと強くなってますから」

【 恋 】 「うん……頑張ってね光くん。あたしも、向こうで頑張るから」

【 大和 】 「あなたなら、どんな逆境でもきっと平気でしょう。 
      なにせ、この学園を変えてしまったんですから」



次に口を開いてくれたのは大和くん。

ミーたちをお願いしに行ったとき、あたしをまだ敵だって言うことがあって、

その言葉にはどこかトゲがある

それが大和くんらしいって思うけど、

同時にもう少し優しくしてくれてもって思ったり------



【 大和 】 「ただ……この国とは環境が違うと思いますから、
      身体には気をつけることです」



……思ったりしていたら、あたしを気にかけてくれるような、

優しい言葉をかけてくれた

こういう二面性も、大和くんらしいところだよね



【 林斗 】 「恋ちゃんは、留学のことクラスのみんなに話せなかったみたいだけど、
      俺から伝えておくよ」



エスパーかと思うぐらいに、あたしの心の内を言い当ててくれる林斗先生



【 恋 】 「それじゃあ……そのことはよろしくお願いします」

【 林斗 】 「任せておいて。 
      みんなには誤解の無いように、
      恋ちゃんは雅哉とハネムーンに出発したことを伝えておくよ」

【 恋 】 「はっ…………?」

【 恋 】 「光くん、大和くん! あなた達二人が頼りだから! 
      くれぐれも、林斗先生に変なこと言わせないでね!」

【 光 】 「お任せ下さい恋様! 
      僕が責任を持って、皆さんに事実を伝えますから!」

【 大和 】 「柏木先生が悪のりしないよう、ちゃんと見張っておきます」

【 林斗 】 「酷いな3人とも。これじゃまるで俺が悪者みたいじゃないか」

【 大和 】 「柏木先生は、もとより『悪』だと思いますが?」

【 光 】 「先生は出来る人なんですから、
      もっと真面目になった方がいいと思います!」



林斗先生は、いつでも林斗先生のままだった

そんな先生に真面目に反論する大和くんと光くんも、いつものままで

巻き込まれると結構大変だけど、

端から見てると、なんだかほほえましくも思えるこのやりとり

それも、今日飛行機に乗ってしまえば、しばらく見ることが出来なくなる……

それは……少し寂しいかも



【 林斗 】 「こらこら。これから留学に行くっていう晴れの日に、
      そんな悲しい顔をしちゃダメだろ」

【 恋 】 「う……。でも……本当に寂しいんですから、しょうがないですよ……」

【 林斗 】 「そうかもしれないね。けど……
      寂しいのは君一人じゃないこと、わかってたじゃない」

【 林斗 】 「ここにいられる光くんも、大和くんも……」

【 林斗 】 「ここには来られない、真亜耶ちゃんや、クラスのみんなも……」

【 林斗 】 「そして……こんな俺だって、
      君がいなくなるのは寂しいって思ってるんだからね」

【 恋 】 「林斗先生……」



思いがけない一言だった

林斗先生は、いつ、どんなときでもひょうひょうとしてて、

本音がどこにあるかわからなかった

けど、そんな先生が、あたしが留学することを、寂しいと思ってくれてるなんて……



【 林斗 】 「…………深くは考えない方がいいよ。 
      いつもの俺みたいに、誤魔化してるかもしれないだろ?」

【 恋 】 「そうかもしれません……。 だけど、いつもの先生だったら、
      今みたいなことは言わないですよ?」



林斗先生がわざわざ話を誤魔化したのは『寂しい』って、

言ったことが本音だからだと思った



【 林斗 】 「…………うん、確かにそうかもね」

【 林斗 】 「やれやれ……
      いつの間にか俺のテレパシーが、恋ちゃんにも移っちゃったか」

【 恋 】 「ふふっ……そうかもしれないですね」

【 光 】 「えっ!? 恋様が柏木先生と同じことが出来るのですか!? 
      そ、それは困ります!!」

【 恋 】 「えっ? 困るってどうして?」

【 光 】 「そ、それは……僕の口からは言えないです……!!」



そう言って、両手で自分の口をふさぐ光くん

その仕草がすごく可愛くて……なにが言えないのか気になる

もちろん、言えないことをわざわざ聞くなんてしないけど



【 林斗 】 「じゃあ代わりに俺の口から。恋ちゃん、光くんは君が側に-----」

【 光 】 「か、柏木先生!! 
      それ以上なにか口にしたら、実力で黙らせてもらいます!!」

【 林斗 】 「くっくっく、冗談だよ。俺だってそこまで無粋じゃないさ」

【 林斗 】 「でも、恋ちゃんにテレパシーがあったら、
      俺が口にしなくても変わらないことでしょ?」



……林斗先生にとっては、絶好のからかう相手を見つけたようで



【 光 】 「あっ!」



そんな先生の言葉に、光くんは涙目になりながらあたしの顔を見て



【 光 】 「ち、違います……。違うんですよ……」



首を横に振りながら、後ずさりしていく



【 恋 】 「だ、大丈夫だよ光くん! あたしにテレパシーなんてないんだから!」

【 恋 】 「さっき先生が言ったのは、そのことがわかってての冗談だからね!」

【 光 】 「そ、そうなんですか!? じゃあ、僕がなにを考えてるかも……」

【 恋 】 「わからないから安心して。こっちに戻ってきてよ」

【 光 】 「そ、そうでしたか……。それなら良かったです」



笑顔が戻った光くんが、小走りで戻ってくる

その様子がまた可愛い



【 大和 】 「………………」

【 林斗 】 「あれ? 大和くん、なんで君まで内心ほっとしてるの?」

【 大和 】 「!? きゅ、急になにを言い出すんですか柏木先生!!」

【 林斗 】 「思ったことを口にしただけだよ。大和くんが心の中で実はさび-----」

【 大和 】 「て、適当なことを口にしないで下さい!!」

【 林斗 】 「適当じゃないよ? その証拠にほら、ミーとニャーが君の側にいる」

【 ミー 】 「ミー」

【ニャー】 「ニャー」

【 大和 】 「こ、これは偶然です! さっきご飯をあげていたからで-----」



…………林斗先生は、新しいターゲットを見つけたみたいだった

結局この場には林斗先生を止められる人なんていなくて、

あたしたちは最後まで振り回された

【 林斗 】 『もし、俺に会えなくて寂しかったらいつでも帰っておいで』

【 林斗 】 『君がいつでも飛び込んでこられるように、俺の胸はあけておくからさ』

そんなことを言われて、正直、出発前にかなり疲れてしまった

だけど……

こういうドタバタしたやりとりも、フランスに行けば当分は出来ないことを考えると



【 恋 】 「結構……いい思い出だよね」



……林斗先生のことだし、実はこれも狙ってやってたりして

ふと思いついたことだけど、先生相手の場合、あながち間違いじゃないと思う

いつでも人を喰ったような態度を取る先生だけど、

決めるところはちゃんとする林斗先生だから

空港へ向かう車の中、手を振るみんなの姿を見ながら、そんな風に思ったりしていた