法月「空閑くん、お風呂に忘れ物。はい」
空閑「あ、ごめんなさい」
広瀬「? シャンプーでも忘れた?」
空閑「ううん。あの、シャンプーハットを……」
広瀬「…………」
広瀬「……目に、入ったら痛いもんね?」
空閑「うんっ!」
葉村(言葉選んだな、あいつ)
広瀬「じゃあ、次俺でしたよね。行ってきます」
法月「いってらっしゃーい!」
時間経過……
広瀬「先輩、お風呂におもちゃ置きっぱなしでしたけど」
法月「え? あ、ごめーん!」
葉村「風呂場におもちゃって……」
空閑「どんなのですか? アヒルのおもちゃとか、水鉄砲とか?」
法月「えっと、お湯に入れると50倍に膨れる系」
葉村(でかすぎねェか? 50って……)
空閑「あの、何の形だったんですか?」
広瀬「そうそう、なんですか? あれ。すごいふやけてて分からなかったんですけど」
法月「えっとねー、市役所の前で配ってた、“カエルのカエリーナタン”」
葉村「先輩、1000円までなら出す。ゆずってくれねーか」
法月「え? それなら明日、市役所前まで行ってきなよ。凄いあまってたっぽいから」
広瀬「どうでもいいですけど、それって住民税で作ってる訳じゃないんですよね?」
法月「うん。
 全部カエルのカエリーナタンを市のマスコットに無理やりした人のポケットマネーだって」
空閑「そ、相当好きなんですね、その人……」
法月「きっと、異常なまでにね」
葉村「……先輩」
法月「ちょ、目が怖いよハム男! 分かったから、貸してあげるから!」
葉村「よし! ……広瀬、カエリーナタンは」
広瀬「乾かした方がいいかなって思って、脱衣所にあるよ」
葉村「おう! 風呂入ってくるぜ!」
広瀬「…………」
広瀬「……葉村くん、あんなにキャラクターが変わっちゃって」
法月「趣味は人それぞれだし、文句は無いけどね。……本人が良ければ」
広瀬「先輩、あげれば良かったじゃないですか」
法月「なんか、使用済みあげるみたいで嫌だなーって」
空閑(一度だけなら、大丈夫な気がするけどな……)
時間経過……
空閑「……本当に長いね、葉村くん」
法月「何してるんだろう、一体……」
広瀬「あんまり考えたくありませんけどね。何をしているかとか……」
風羽「おや、皆さんおそろいで」
法月「うん、おそろいだよー。スガちゃんは珍しいね、部屋にこもってるって」
風羽「実家の祖父に手紙を書いておりました」
広瀬「そうなんだ、偉いなあ。……そういえば俺、全然連絡してないよ」
風羽「それはいけません。ご家族が寂しがると思います」
広瀬「確かにそうだね。気をつけるよ」
風羽「さて、そろそろお風呂に」
空閑「あ、まだ葉村くんが出てないよ」
風羽「そうなのですか? 珍しく長風呂なのですね」
法月「まあ……ね」
風羽「?」
葉村「先輩! これすげー!! 触感がマジやべえ!!」
風羽(葉村くんが満面の笑みで興奮している)
広瀬「……随分お風呂長かったね」
葉村「は? お前に何か迷惑かけたかよ」
広瀬「いえ、特には……」
空閑「ね、ねえ葉村くん。何が凄かったの?」
葉村「そうそう、あのな? この……」
風羽(盛り上がっているのでそっと失礼しよう)
時間経過……
風羽「戻りました」
法月「お帰りー」
風羽「時に葉村くん。排水溝が葉村くんの髪の毛で詰まっておりましたが」
葉村「いや、俺だけの所為じゃないだろ? 四人分だろ」
風羽「しかし、毛色が葉村くんでした。あの目立つ色は他にはおりません」
空閑「……抜け毛、激しいの?」
葉村「そうじゃないと信じたい」
空閑「そういえば、もてる男の人は抜け毛が激しいって聞いたよ? 良かったね!」
葉村「いやいや、勝手に抜け毛キャラにするなよ。つか話飛んだな」
広瀬「抜け毛が多いとどうしてもてるの?」
空閑「抜け毛が多いから持てるんじゃなくて、もてる人って異性をひきつける物質が人より多いらしいんだけど、それが影響して抜け毛が多いとかって……ネットで見ただけなんだけど」
法月「あ、じゃあ本当かどうかは分からないんだね」
空閑「そ、そうですね……確かに」
風羽「ほう。ではそれが本当ならば、葉村くんはもってもてなのですね」
葉村「いや、だから抜け毛キャラとか止めろっつの! そういう地味に苦労性キャラって俺の柄じゃないし!」
法月「広瀬っぽいよね、どっちかといえば」
広瀬「俺は別に抜け毛激しくありません。あと、特にもてません」
風羽「そうなのですか?
 芳子さんからは中学の頃はそれなりにモテていたのでは? と、お聞きしましたが」
広瀬「俺 、 も て な い か ら」
風羽「分かりました」
葉村「なんで必死に否定してんだよお前、普通逆だろ」
空閑「葉村くんも、モテそうだよね。格好いいし」
葉村「…………」
法月「……空閑くん。ハム男はこういう話嫌いだから」
空閑「あっ……ごめん!」
風羽「なるほど、すみません。この話題を引きずり出したのは私でしたね」
葉村「別にいいけどさ。俺に意見もとめなけりゃ、しててもいいよ」
米原「ただいまー」
法月「おかえりなさーい。遅かったね?」
米原「思いの他話がまとまらなくてさー」
風羽(町内会か)
米原「ゴミ出し場のネットの色を黄色にするとか緑にするとかピンクにしたいとか……」
葉村「ネットじゃなくて鍵つきのゴミ出し箱設置すればいーんじゃねーの?」
米原「一箇所だけってなかなか難しいからなあ。まあ、ネットでも結構カラスが寄ってこないもんだよ」
空閑「そういえば、最近家の近くでよくカラスの鳴き声聞きますね」
法月「ねー。山の方から降りてきたのかなー」
風羽「実家の近くにもよくカラスがいました。人を襲ったり、ゴミを漁ったりなどは全然しませんでしたが」
広瀬「そうなんだ。頭がいい上、プライド高いカラスだったのかもね」
葉村「なんだよプライド高いカラスって」
米原「はいはい、話はその辺で終了! 良く見たらもうこんな時間じゃないか。歯を磨いて部屋戻りなさい」
法月「はーい。そうだハム男、カエリーナタン返してよ」
葉村「…………」
空閑「……あ、無言で襖の向こうに消えた」
法月「ちょっとー!」
風羽(名残惜しいのだろうか)
広瀬「それじゃあお休みなさい、先生」
風羽「おやすみなさい」
空閑「お、おやすみなさい……」
米原「はい、おやすみなさい」
日常1 完

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