如月征都、16歳。
神父見習いの仲間内で密かに付けられたあだ名は「恋愛御法度くん」。
彼に告白した人間は1秒で振られる。いや、1秒も掛からないかもしれない。
裏庭に呼び出され「好きです」の「す」と言われた時点で「ごめんなさい」の時もあるとか。
一応付いて来てくれる優しさはあるけれど、結局振られる。その確率、驚異の100%。
そんな噂があっても想いを告げる女生徒は後を絶たないのだが、たとえ相手が誰であっても如月征都は振り向かない。
無感動、無関心。それが彼の基本スタイルである。
嫉妬した男子は、何であんな無愛想な奴が良いんだと首を傾げる。憧れる女子は、何であんなにクールなのかしらと頬を染める。
語る人間によって評価は様々だけれど、好き勝手に語られる方は正直迷惑だろう。だがしかし、如月征都は何も言わない。
興味がないからだ。
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久遠「聞いたよ、征都。また振っちゃったんだって〜?」
征都「…………」
兼我「いつものことだろ、久遠。あんまり困らせんな」
久遠「でもでも、もしかしたら違うってこともあるかもじゃん!」
兼我「かもなんかねーよ。良いから、違う話しよーぜ」
久遠「えー」
兼我「あ、そうだ久遠。お前が欲しがってたゲーム、予約開始したってネットに出てたぞ。もう締め切ってる店舗もあったし、急いだ方がいんじゃね?」
久遠「マジで!? ありがと、早速予約しよーっと!!」
征都「…………」
兼我「なあ征都。今日の放課後、お前どっか行く?」
征都「……行かない、けど」
兼我「じゃあさ、来て欲しいとこあんだけど……良いか?」
征都「…………」
兼我「……良いですか?」
征都「…………どこ」
兼我「新しいバイト先の――」
征都「行かない」
兼我「早っ! 何でだよ」
征都「人、多そう」
兼我「まあ、店ってのは人が多いよな。でもお前が来てくれねーと……」
征都「? ……俺が?」
兼我「えっと……その」
兼我「わりぃ! 携帯の画像見られてさ、紹介しろってー……」
征都「ごめんなさい」
兼我「だーよーなー……。あー、マジで面倒だわ」
兼我「つか、聞いてくれよ。この前ゲーセンで写真取るの、やっただろ?」
征都「? …………ああ、あの変な」
兼我「変とか言うんじゃありません。……でな、あれを携帯裏に貼ってたから見られたんだよ。いや違う、貼られてんだ」
征都「む……?」
兼我「こいつだよ、こいつ!」
久遠「うわっ! な、何??」
兼我「久遠、お前俺の携帯にシール貼っただろ? 無断で」
久遠「へ? 駄目だった??」
征都「駄目だ。人目がある。知らない人が増える」
久遠「し、知らない人って……。ああ、告白しに来る子ね? ……でもさ、そもそも征都って何でそんなに女の子を嫌うの?」
久遠「何か嫌なことされた? そういうのだったら、オレもしつこく言わないけどさぁ」
征都「……別に……そうじゃない、けど」
久遠「そう、なの……?」
征都「…………」
兼我「久遠。それで、お前の予約は終わったのか?」
久遠「え? あ、まだだよ。ってか、兼我が無理に引っ張ったんじゃん!!」
兼我「あー……そっか。じゃ、もう良いから。元気に戻れ」
久遠「おー!」
征都「…………」
兼我「…………悪かったな、勝手に」
征都「いや……別に良い」
兼我「そう? なら放課後ー……」
征都「行かない」
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如月征都、16歳。
ある時、征都たち3人は修練の為に違う学校で生活することになり、そこで1人のシスター見習いの少女と出逢う。
その翌日、悪戯好きの久遠が早速彼女を困らせる事件を起こす。しかし予想に反して彼女は怒りもせず、泣きもせず、マザーの言葉に耳を傾けていた。
やがて彼女は軽い足取りで征都たちの横を通り過ぎる。悪戯なんてどこ吹く風、全く気にしていない様子であった。
そこで久遠は楽しそうに次の計画を練り、兼我は呆れつつ、しかし久遠の暴走だけは止めようと見守っていた。
そして征都は……彼女を「変な奴」だと認識した。
変だなんて女の子に対して随分失礼な奴だと思うかもしれないけれど、よく考えて頂きたい。
それが無感動、無関心を貫く人間にとって相応しい感想だろうか。
密かに付けられたあだ名、「恋愛御法度くん」。この名を改名する時が迫っていたとは、この時誰も気付いていなかった。
そう、本人でさえも――。