高梨久遠、14歳。
神父見習いの仲間内で密かに付けられたあだ名は「構ってちゃん」。
周囲を巻き込んで問題を起こすトラブルメーカーなのだが、全ては構って欲しいからである。
怒られても反省しない。本当にヤバいことはしない。だから基本的に放っておけば問題ない。
以上のことが分かっている為、神父見習いの多くは彼に構わない。彼が「構ってちゃん」だと分かっていても、知らない振りをする。
けれど、中には放っておけない人もいて……。
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兼我 「こら、久遠。これで何度目の罰掃除だ?」
久遠 「えっと……33回目!」
兼我 「いや、正確な答えは聞いてねーから」
久遠 「? じゃあ何で質問したの?」
兼我 「そろそろお前が反省したかと思ってだよ。なあ、征都?」
征都 「…………ああ……?」
久遠 「反応遅っ! しかも何か疑問系!?」
兼我 「気にするな。で、答えは?」
久遠 「……してないよ。だって、オレ悪いことしてない」
兼我 「うん? でもお前が掃除後のバケツを倒したって聞いてるぞ?」
久遠 「……悪くないもん」
兼我 「どこがだっつの」
征都 「まあ、わざとじゃない可能性も……考えられる」
久遠 「! さっすが征都! 優しい!!」
兼我 「はいはい。オレも1回や2回なら言わねーよ。でもな、そんなのが33回も続くのか? どこのドジだそれは」
久遠 「ここのドジだそれは」
兼我 「真剣に反省しなさい」
久遠 「えへへ!」
征都 「ん……とにかく、掃除は終わったのか?」
久遠 「あ、うん! 終わった!! ってことでー……」
兼我 「じゃあ帰ろう。って、ならないからな! まだ話は終わってないぞ」
久遠 「別にないぞ」
兼我 「真似するのは止めなさい」
久遠 「えー! 良いじゃん!!」
征都 「…………久遠」
久遠 「なーに?」
征都 「今度から外で掃き掃除をすると良い。それならバケツを倒さない、だろ?」
久遠 「え……」
兼我 「いや、駄目だ。こいつのことだから、手が滑ったーとか言って集めた葉っぱをまき散らすぞ」
久遠 「あ、それ良いね!」
兼我 「だーかーらー、真面目に掃除しなさいっての」
久遠 「だーかーらー、したくないの!」
征都 「じゃあ……久遠は、何もしなくて良い」
久遠 「え」
征都 「したくないなら、仕方ない。俺達がやる」
久遠 「いや、でも……」
征都 「…………嫌なのか?」
久遠 「嫌っていうか……オレも一応、ここで生活してるし」
征都 「……じゃあ、掃除したらどうだ?」
久遠 「…………うん」
征都 「よし。そろそろ寮に……」
兼我 「ったく、最初から素直になれよ、この構ってちゃんめ」
久遠 「む! そういうこと言われるとムカツクー!!」
征都 「…………」
兼我 「本当のことだろ? いつまでも迎えに来て貰えると思うなよ」
久遠 「べ、別にオレから頼んでないし!!」
兼我 「へえ? じゃあ今度から来てやらねーぞ?」
久遠 「やだよ! 兼我の馬鹿っ!!」
兼我 「はあ!? 何で俺が馬鹿なんだよ!!」
久遠 「馬鹿だから馬鹿なの! ばかばかばかばかっ!!」
兼我 「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ! この大馬鹿者っ!!」
征都 「…………」
征都 「…………やれやれ」
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高梨久遠、14歳。
神父見習いの仲間内で密かに付けられたあだ名は「構ってちゃん」。
その名に偽りはなく、彼は寂しがりで、何かをやらかすことで自分という存在を証明したがる。
そんな彼を放っておけない人がいて……そんな人が、彼は大好きだった。
やがて、彼は1人のシスター見習いの少女と出逢う。
(なんて、可愛い子なんだろう)
素直な感想を親友に打ち明けると、「“苛めたら”可愛い、だろ?」とからかわれ、照れ隠しにそうだと答える。
けれど本当は違った。見た目だけではなく、心を惹き付ける何かがあった。
それは1人では決して出来ないこと。相手がいて、相手を想って、はじめて分かること。
彼は予感していた。きっとこの出逢いが、自分を変えてくれると。
そう信じて、彼は今日も彼女に声を掛ける。
出逢った時の想いを、同じように感じて欲しいと願いながら――。