神さまと恋ゴコロ ショートストーリー5 笠原誠司

 笠原誠司、17歳。

 彼は会長以外立ち入り禁止の生徒会室で、紅茶を片手に職務をこなす生徒会長である。

 では、同じ生徒会メンバーである副会長や会計、書記はどうするのかというと……存在しない。

 この学校では“社会に出たら企業のトップは1人=生徒のトップも1人”というやや強引な教育方針により、代々会長1人が生徒をまとめている。

 もちろん誰でもなれる訳ではなく、教師によって成績優秀者が選抜され、全校生徒による投票で1人の候補に絞られる。

 そして最終的に学校の偉い人と面談があって決定するのだが、実はそこで必ず聞かれることがあるらしく……。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

昴 「ねえねえ! この学校が好きですかって聞かれるって本当!?」

誠司 「そうですけど……貴方、どこから入って来たんです?」

昴 「え? そこの窓から」

誠司 「…………」

昴 「相手が俺だったから良いようなものの、戸締まりはしっかりしておかないと駄目だよ〜?」

誠司 「ご忠告どうも」

昴 「と、笑顔で対応しながら何故内線を使おうとする!? 俺、お前の友達! 怪しくない!!」

誠司 「友達……じゃあ生活指導教師と警備員、好きな方を選ばせてあげますね」

昴 「ど、どっちも嫌だっつーの! それ優しさ違う!!」

誠司 「ええと、出身国はどちらでしたっけ? 日本語お上手ですけど、時々おかしいですね?」

昴 「お、お前と同じだわ!! ねえ何でそんなに俺を追い出したいの!?」

誠司 「……あーもう、分かったよ。で、何の用?」

昴 「だからさ、生徒会長になる時の話だよ。さっき可愛い女の子に聞かれたんだよ」

誠司 「“東條先輩って、生徒会長とお知り合いですよね? 生徒会長ってどうやって決まるんですか?”」

昴 「……へ?」

誠司 「“私、生徒会長に興味があるんです。最終面談でどんな質問をされるか知ってます?”」

誠司 「“噂では学校が好きかどうか聞かれるみたいですけど……本当かどうか知りたくて”」

誠司 「“なーるほどね、じゃあ俺が聞いて来てあげるよ! 俺、あいつと友達だから!!”」

昴 「……聞いてたの?」

誠司 「窓が開いてたから聞こえたの」

昴 「じゃ、じゃあ意地悪しないで教えてよ」

誠司 「教えたよ? そうですって答えたじゃない」

昴 「あれ? 言われてみれば確かに……よし、じゃあ早速教えてあげなきゃね!」

誠司 「水を差すようで悪いけど、止めておいた方が良いと思う」

昴 「え? あ、もしかしてお前もタイプとか!?」

誠司 「…………」

昴 「だよなー。だって超絶可愛かったもんなー! でも聞かれたのは俺だから、俺が答えるからね!!」

昴 「まあ、俺のおまけとして付いて来ても良いけど〜?」

誠司 「あのね、僕は親切だから教えてあげるけど、彼女は僕に用があったんだよ?」

昴 「え?」

誠司 「貴方、いつものように最後まで話を聞かなかったでしょ?」

昴 「え? え??」

誠司 「“本当かどうか知りたくて。だから、生徒会長の笠原さんを紹介してくれませんか?”」

誠司 「そう言ったのに貴方がこっちに向かったから、“待って下さい”って慌ててた」

昴 「う、うそ……」

誠司 「本当だよ」

昴 「しょ、紹介……?」

誠司 「紹介だね」

昴 「ってことはー……俺が、おまけ?」

誠司 「さあ? それは知らないけど」

昴 「な、何だよ、何だよ〜!! お前を呼んで来る為に使われたって訳!?」

誠司 「だから、知らないって」

昴 「うう……でも、やっぱり色々教えて? 他のもーっと可愛い子に聞かれるかもしれない」

誠司 「……いつもながら前向きなことで」

昴 「まあね! 俺の長所だからね!!」

誠司 「はいはい……で、一応好きと答えたら、具体的に学校のどこが好きですかって質問に変わるよ」

昴 「ふうん? で、お前はどう答えたの?」

誠司 「それは……別に良いでしょ」

昴 「え! 何で?」

誠司 「聞かれたのは質問でしょ? 答えは聞かれてないし」

昴 「こ、ここまできたら教えてよ! 俺が気になる!!」

誠司 「質問者が昴じゃ……ね」

昴 「がっかりすんなよ!!」

誠司 「はぁ……とにかく、もう良いでしょ。僕は忙しいんだから」

昴 「え! ちょっと!! 終わり!?」

誠司 「終わり。これ以上邪魔をするなら、本当に人を呼ぶからね」

昴 「うー……わ、分かったよ! でも、いつか教えろよなー!!」

誠司 「何で昴に……って、もういないし」

誠司 「…………」

誠司 「どこがなんて……1つしかないよ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 笠原誠司、17歳。

 この学校で彼が好きなところ。それはどんな者でも笑顔で迎え入れる、愛に溢れた聖なる場所を指す。

 その中に、彼にとって世界で1番大切な人がいる。

 けれど、愛しい想いとは反対に胸は痛む。逢いたい、けれど逢えない……。

 職務に戻る為に軽く頭を振ったところで、陽の光を浴びた紫髪が視界に飛び込んできた。

 彼は美しい思い出を胸にしまい、受話器を手に取った。

 窓の外で盗み聞きしようとする悪友に制裁を与える為に――。