東條昴、17歳。
明るくて、ちょっと馬鹿で。
女の子が大好きで、彼女達からも好かれるハッピーな男。
しかし同性の友人は1人しかおらず、そのたった1人からも「貴方は友人ではなく知人です」と言われてしまう可哀想な人。
学校では明るい感じ。街ではクールな感じ。大好きな彼女達が望む「東條昴」を演じる。
では一体、どちらが本当の彼なのか……。
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誠司 「ねえ、昴。さっきの……何?」
昴 「え? 何って、何??」
誠司 「女の子に対しての態度。学校と全然違うよね?」
昴 「んー? だってあれ、別人だもん」
誠司 「…………はい?」
昴 「あれはね、街モードなの。街で逢った女の子に対しては、くーるで格好良い俺なの」
昴 「で、今はお前相手でしょ? 学校モードの明るく楽しい俺!!」
誠司 「…………」
昴 「あれ? もしかしてあっちの方が良い? 今度から変える??」
誠司 「え?」
昴 「お前の好きな方の俺でいてあげる。友達だから、特別な?」
誠司 「…………」
昴 「黙ってどうしたの。いつもみたいに偉そうにしろって、そっちの方がお前らしい」
誠司 「…………嫌です」
昴 「嫌? 何で? こっちの俺の方が良いっていう子が多いのに」
誠司 「正直に言います。今、とても気分が悪いです」
昴 「っ……正直すぎ。酷い奴」
誠司 「悪かったね。でも戻して」
昴 「ふーん、そっかあ! じゃ、そーしよっかな!!」
誠司 「…………」
昴 「? どうかした?」
誠司 「よく考えたら昴のことだし、別にどうでも良いですよね」
昴 「え……」
誠司 「どうでも良いよ。貴方がどんなでも」
昴 「よく……ないでしょ? 俺は、よくな――」
女の子 「昴じゃん! ちょうど良い所で逢えた!!」
昴 「あ……や、やあ。どうしたの?」
女の子 「って、隣の格好良い子は友達? 紹介してよ」
誠司 「…………」
昴 「ああ……ごめん、こいつ人見知りでさ」
女の子 「ふーん。じゃあさ、昴だけでもこれから時間取れない? 好きそうなお店、見付けたの」
昴 「マジで? それなら行こうかな」
昴 「おい誠司、お前もちょっとなら……って、待てよ!!」
女の子 「え! 昴!?」
昴 「待って! ま、待てってば、誠司!!」
誠司 「……それ、どっちの昴?」
昴 「え……」
誠司 「街モード? それとも学校モードですか?」
昴 「っ……それは」
誠司 「ここは、街ですね?」
昴 「う、ん……でも、誠司が相手だし」
昴 「さっきは女の子と話してたけど……でも、置いて来ちゃって」
昴 「……わかんない」
誠司 「……あのね。貴方が何も言わないから、何をそんなに気にしてるのかなんて知りませんけど」
誠司 「街モードだとか学校モードとか、僕にとってはどうでも良いんだよ」
昴 「…………」
誠司 「自分のこと変えてまで、他人に好かれたい? 本当に昴のことを好きな子が現れても、そうやって嘘をつくの?」
昴 「う、嘘じゃないよ! でも……本当の俺なんて誰も知らない。学校では明るくて、馬鹿やって……街ではクールで、お洒落な俺がいるはずなんだ」
昴 「望まれてるんだよ。そうするしかないじゃないか!」
誠司 「僕は望んでないけど」
昴 「っ……じゃあ……お前は本当の俺のこと、分か――」
誠司 「分かりません」
昴 「っ!?」
誠司 「分からない。僕は知らない。どうでも良いって言ったでしょ」
昴 「……もう、何なのお前。そこはお前のことなら分かるよとか……言えよ」
誠司 「嘘をついて欲しいの? ……それって、本当に友達?」
昴 「…………」
昴 「ごめん、馬鹿なこと言った」
誠司 「気にしてないよ。いつものことでしょ」
昴 「う……」
誠司 「良かったね? いつも同じ昴なんだから、僕の前で何とかモードとか作らなくて良いじゃない」
昴 「え? あ、うん。そうだね」
昴 「何かうまく丸め込まれた感じするけど……ありがとな」
誠司 「早く……分かってくれる子が現れると良いね?」
昴 「え?」
誠司 「貴方の面倒を見るの、そろそろ代わって欲しいです」
昴 「そ、そんなこと言うなよ! 俺達、友達だろ!?」
誠司 「はい? 誰がそんなこと言いました?」
昴 「お前だよ! 本当に友達だと思ってくれたから、嘘つかなかったんだろ!?」
誠司 「………………はい?」
昴 「聞こえない振りすんなっつーの!!!!」
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東條昴、17歳。
本当の彼なんて誰も知らない。本人でさえよく分かっていないけれど、彼はそれでも良いと思っている。
どんな自分でも受け入れてくれる人が現れれば、自ずと答えは分かるから。
だからそれまでは自由に生きるのだ。
同じように、どんなことでも受け入れられるような“本当に好きな人”が現れる――その時まで。