神さまと恋ゴコロ ショートストーリー7 日渡奏良

 日渡奏良、24歳。

 神父さまのイトコである彼は、笠原誠司の叔父である。

 といっても、結び付きは限りなく薄い。

 初めて顔を合わせた日は今から10年以上前、秋の木の葉が舞う季節だった……。

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神父様 「は、初めまして!」

奏良 「……初めまして」

神父様 「…………」

奏良 「…………」

マザー 「……お2人とも、他に何か仰ることはないのですか?」

神父様 「い、いや……その、緊張してしまって」

奏良 「…………」

神父様 「え、ええと……中をご覧になりますか?」

奏良 「結構です。それより集合場所はここから遠いのですよね? 早く出発すべきではありませんか?」

神父様 「は、はい……そうですね」

マザー 「……お2人だけでは心配ですわ。私も会合に参加しましょう」

神父様 「良いのですか?」

マザー 「構いません。あの子には留守番をするように伝えて来ます」

神父様 「そう、ですね。誠司も一緒ですし、大丈夫ですよね……」

奏良 「……あの」

神父様 「は、はい!」

奏良 「……そのように畏まられると、困ります」

神父様 「す、すみません……」

マザー 「何か気になることがありましたか?」

奏良 「……いえ、もう結構です。中に用があるのですよね? どうぞ」

マザー 「そうですか。神父さまも、行きますか?」

神父様 「あ、はい……」

奏良 「…………」

神父様 「い、いえ! やはり、一緒にここで待ちたいと思います」

奏良 「…………」

マザー 「それでは、愛梨に伝えて来ますわ」

神父様 「お願い致します」

奏良 「…………」

神父様 「…………」

神父様 「……あ、愛梨というのは……ですね」

奏良 「はい?」

神父様 「あ、ええと……名前だけ話に出たので、気になったかと思いまして」

奏良 「…………ええ、まあ」

神父様 「そうですか! 愛梨の字は“愛”に“梨”と書きます。とても愛らしい子で、年は誠司より1つ下です」

奏良 「愛が……なし?」

神父様 「いえいえ。梨は有りの実とも呼ばれます。愛が実る、という意味です」

奏良 「なるほど。お子さんが2人いるとは知りませんでした」

神父様 「い、いえ、違います。彼女は、天からの贈り物なのです」

奏良 「……?」

神父様 「丁度今頃の時期です……運命の導きといいますか、とにかく私にとっては誠司と同じく、かけがえのない存在です」

奏良 「天からの贈り物……ですか」

神父様 「ええ」

奏良 「少し……ですが」

奏良 「羨ましいと、思います。もっとも……そんなことを感じたことがないので、正しい表現か分かりませんが」

神父様 「日渡くん……」

奏良 「梨……有りの実、これは良いことを聞きました。今まで私は利用できる木、利益になるような木……だと思っておりましたが」

奏良 「愛が実る木ならば、それは素敵でしょうね」

神父様 「ええ、そうなんです!」

奏良 「……まあ、実際にそのような木を確かめたことはありませんけれど」

神父様 「おや……ふふ、そうですね。でも見ることが出来れば、と思いますよ」

マザー 「お待たせしました。……あら、何か良いことがあったのですか?」

神父様 「え?」

マザー 「お2人とも、先程よりずっと良い顔をしていますから」

奏良 「…………」

神父様 「分かりますか? 実は……」

奏良 「そろそろ出発しましょう。本当に間に合わなくなります」

神父様 「おっと、そうでした。神父様が遅刻してはいけませんよね」

奏良 「……私はまだ、見習いですが」

神父様 「心はそうでしょう? さて、行きましょうか。話は歩きながらでも出来ますからね」

奏良 「…………」

神父様 「次は、そうですね。私の名前の由来についてもお話ししましょうか? そして、是非日渡くんの由来も――」

奏良 「口ではなく、足を動かして下さい。……行きますよ」

神父様 「あ! ま、待って下さい……!!」

マザー 「ふふ、本当に随分仲良くなったのですね。……あ、あら? ドアが開いて……」

愛梨 「い、行ってらっしゃい。マザー」

誠司 「行ってらっしゃい」

マザー 「まあ、お見送りに来て下さったのですね。ありがとうございます」

神父様 「マザー?」

マザー 「はい! ……では、行って来ますわね」

愛梨 「お、お気を付けて!」

奏良 「……?」

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 日渡奏良、24歳。

 10年以上も前、彼はイトコのいる教会を訪れ、そこで偶然イトコの息子と愛らしい少女を見掛けた。

 その後、彼女が自分の名前を笑顔で語った時、彼の脳裏にどこか懐かしい記憶が浮かぶことになる。

 その名の由来と、彼女に注がれた深い愛情。

 しかし、彼はそれを認識するまでに多くの時間を必要としてしまう。

 過ぎてしまった時はあまりにも長く。

 誰にも言えない秘密を、胸に隠していたから――。