「ようこそボクの女王様! ここはキミにもっとより深くボクらと≪お茶会≫を知ってもらう為の場所っす!」 | |
「あ、既に知ってるだろうけどボクの名前は“誠実”の“誠”にWたすける”って意味の“丞”で、 ≪密原誠丞≫って言うっす」 | |
「≪久瀬蒼馬≫だ。俺の姉であるお前は賢明だからこんな胡散臭い男を深く知る必要はない。以上だ」 | |
「女王様の前くらいは休戦しません?」 | |
「断る!」 | |
「…………」 | |
「さてごきげんよう、≪日之世武尊≫です。……ところで貴方も自己紹介ぐらいしたらどうです?」 | |
「……≪古橋旺一郎≫」 | |
「おいもっと声を張れ! そして姉の為に貴様も一肌脱げ!」 | |
「意味のないことをするつもりはない。意味があってもするつもりはないがな」 | |
「そんなこと言ってると女王様に好きになってもらえないっすよ?」 | |
「望むところだ」 | |
「……協調性のない奴め」 | |
「キミがそれを言うんすか」 | |
「まあやる気のない人は放っておきましょう」 | |
「そっすね。無理強いは良くありませんし……」 | |
(……その方が俺の出番も増えることだし) | |
「では改めまして……ようこそ特設サイトへ! ここでは≪SWEET CLOWN 〜午前三時のオカシな道化師〜≫が どんな物語かさくっとご紹介しちゃうっす☆彡」 |
「つまりうっかり悪魔の棲む城に行ったら閉じ込められて出られなくなる話です」 | |
「ざっくり言えばそうっすけど、もう少し飾り立ててくれません?」 | |
「さて、そんな僕達が暮らすことになる城にはどうやら≪夜の世界≫しかないそうですよ」 | |
「何故だ?」 | |
「さあ、理由は知りません」 | |
「ですが昏闇に包まれ城から出ることも叶わず時間だけが悪戯に過ぎその焦燥感から精神が蝕まれて行く……いやあ実に狂気染みていて愉快な話だイヒヒヒヒ!」 | |
(……うわ、怖っ) | |
(狂気染みてるのは自分の存在だと早く気付いてくれ) | |
「ところで≪スイートクラウン≫というのはどういう奴なんだ?」 | |
「悪魔です」 | |
「もっと詳しく」 | |
「確か≪願いを叶える悪魔≫っすよね」 | |
「ええ。それも無差別に叶える訳じゃない。『強い欲望を持つ人間』や『性格の歪んだ人間』を選ぶ節がある」 | |
「悪趣味この上ないな」 | |
「同感です」 | |
「あー、好かれた人は可愛そうだけどご愁傷さまっすねー」 | |
(……城に呼ばれた時点で自分達も該当するとは思ってないようだな) | |
「さてさて、それでは店舗別特典のご紹介っす! 詳細は各店舗様のサイトを見てくれると嬉しいな?」 |
≪SS小冊子・テーマ:歪愛グッドエンドアフター≫ |
「……正直な人」 |
微かに笑いを含んだ声で呟くと、俺の手を取り中指の関節にキスを落とす。 |
抵抗することなくその様を見守れば、今度は中指と人差し指の間に何度も何度も舌を滑らせる。 |
彼女の頬が、瞬間的に朱に染まる。 |
今の格好に対する羞恥と、自分の置かれている状況に戸惑っているのが分かった。 |
「悪いと思っているなら、今すぐその邪魔な物を脱いでもらえます?」 |
「俺だっていつも……不安で不安で仕方がない。やっと、俺とお前だけの世界を手に入れたと思ったのに、結局また別の悩みが生まれるだけだ。お前の目が見られないと、お前が何を考えているか分からなくて……お前が他の誰かを追いかけてるように見えて、……恐ろしい」 |
口にすれば、それは言霊のように力を持った。 |
そうしたいという気持ちが躯の奥底から沸き上がり、俺の理性をぐちゃぐちゃに掻き乱す。 |
「……ふふ、美味しい。蒼馬くんは本当に料理上手だね」 |
「ああ、料理なら任せろ。お前の為なら幾らだって美味いものを振る舞ってやる」 |
包丁の使い方だって上手くなった。今なら彼女の為に何だって作れるし、何だって壊せる。 |
≪SS小冊子・テーマ:深愛グッドエンドアフター≫ |
「……俺も君を捜してた」 |
「え……」 |
少しばつの悪そうな顔は照れているようにも見える。 |
「……少し散歩しないか。結局二人だけで話したのは、昼の中庭きりだったしな」 |
「! ……は、はい」 |
「イヒヒ、そんなに見開くと目玉が落ちますよ? まあ、貴方のなら拾って丁寧に保管しますが」 |
「……が、学校は?」 |
「終わってから速攻来ました。そんなに遠くもないですし」 |
「このままロマンチックに夕陽が落ちる瞬間でも見ようかと思ったけど、予定変更」 |
「ど、どうしたの? 突然」 |
「お前が俺の気持ちを盛り上がらせるからだろ。……たまには無駄にいちゃいちゃさせろ」 |
耳許に性急に囁けば、彼女は見る間に頬を赤らめた。その瞳が、口より簡単に俺に答えを教えてくれる。 |
「どうしたの?」 |
「……分からない。でも名前を呼びたくなった」 |
「そっか。……うん、私の名前で良かったら幾らでも呼んで?」 |
「名前を呼ばれたら、嬉しいか?」 |
「勿論嬉しいよ。蒼馬くんに名前を呼ばれるのが、一番好きだよ」 |
「少しはボク達のこと分かってもらえたかな?」 | |
「…………」 | |
「おい起きろ貴様! 姉の前で寝るとは何事だ!!」 | |
「……以上だ」 | |
「ちょっとちょっと、何まとめに入ろうとしてんすか。もう少し媚びて欲しいっす、オーイチロウくん」 | |
「例えば?」 | |
「え? いっそ脱ぐとか」 | |
(もれなく捕まるな) | |
「女性はギャップに弱いものです。……さて、ここに取り出しましたるは双子のウサギ」 | |
「くらんだよー」 | |
「急に何の用だよ」 | |
「はい古橋さん。持ってください」 | |
「……は?」 |
「…………」 | |
「ちょ、きつい」 | |
「ぎゅー」 | |
「……さて、そろそろ飽きたから締めましょっか?」 | |
「おい姉、聞いただろう? こいつは不誠実でどうしようもない奴なんだ。くれぐれも選ぶなよ?」 | |
「女の人はそういう危険な男性にこそ惹かれるものでは?」 | |
「そんな馬鹿な話があるか!」 | |
(このウサギはどうしたら) | |
「はいはい締めるっすよー。じゃあまずはボクから……」 | |
「可愛いキミに早く逢いたいっす! ……そうしたら全身抜け出せなくなるくらい骨抜きにして、俺に溺れさせてやるよ」 | |
「姉よ、お前を守るのは弟であるこの俺だ! だから誰より先に俺に逢いに来い、約束だぞ!」 | |
「僕達オフレンダを生かすも殺すも女王様次第です。 ……まあ、精精必死に足掻いて僕を愉しませてくださいね?」 | |
「…………」 | |
「……スイートクラウン城にて、貴方のお越しを心からお待ちしております」 |