それは、夏休みが終わって二学期が始まった9月1日の出来事……。

3週間後にある学園祭準備の為、日が暮れるまで学校に残っていた私は、急いで家に帰って夕食の準備を始める。
一緒に暮らしているお兄ちゃんと話しながらの調理は少し失敗しちゃったけど、まぁ、それなりに順調に作れてて。
お皿に料理を盛りつけようとしていたとき…………お兄ちゃんの携帯の着信音が聞こえてきた……。

それは……私たち兄弟の運命を左右する電話。
この音が聞こえとき、私は学校を転校することになる……。

私、『上河 菜々美』に両親はいない……。10歳離れた兄と2人暮らしをしている高校2年生。
お兄ちゃんはもう働いていて、私はその仕事の都合で、もう何回も転校を経験している。
長くて半年、短いと3カ月にも満たない間しか、同じ学校にいることが出来ない今の生活は、あんまり好きじゃない。
本当は、ひとつの場所にとどまって、同じ学校で卒業までの学校生活を送ってみたいって思う。
だけど、『独り暮らしだけは絶対にダメだ!』ってお兄ちゃんは大反対するし、私自身……それは少し怖い。
家事全般は私の仕事だから、一通りのことは出来る自信あるけど……。
家に自分が1人という状態に耐えられる自信はあまりない……。
寮のある学校とかに転校することができたら、そのまま学校にとどまって、卒業まで生活出来そうだけど……。
そうそうそんな学校に転校できるわけないし、ワガママを言ってお兄ちゃんに負担を掛けるのも嫌だ。
なんだかんだ言っても、お兄ちゃんは私をすごく大事にしてくれるしね。

あっ、電話が終わったみたい。あの申し訳なさそうな顔は、やっぱりお仕事の話だったみたい。
わかってます。これはしょうがない事なんだって。だって、私たち兄妹が生きていく為だもん。
それに、転校することは嫌な事だけじゃないよ? 新しい出会いがあって、いっぱいの友達が出来るのは楽しいし。
今はネットが発達してるから、メールやチャットでいつも連絡が取れるし、私は全然寂しくないから。
だから、そんな悲しそうな顔をしないで。今度転校する学校の名前を教えてよ。ねぇ、お兄ちゃん?