誕生日の朝の小さな嘘
(配信シナリオ八回目の千木良シナリオその後辺りの話っぽい何か)
 〜 副題 : こんなこともあったかもしれない 〜
「千木良先輩」
「……ぐー……」
「千木良先輩、起きてください」
「……っ……うっさいわ、起こしにこんでええって言ってるやろ、風羽」
「広瀬です」
「…………」
「何もそんなに目を見開かなくても」
「……なんでお前に起こされなあかんねん、今日一日最悪な気分やわ……」
「起こしに来た人間にそれですか」
「……罵倒されんの分かってきとんのやろ? それくらい我慢せぇや。ふあああ……」
「傍若無人って先輩の為にあるような言葉ですよね」
「……褒めとんのか?」
「ええ、盛大に。……そういえば、千木良先輩も部屋の鍵かけないですよね」
「思春期やあるまいし、部屋に入られても困らんし」
「……仕事で必要なもんはどうせお前らの目ぇには見えへんし」
「え? 仕事?」
「なんでもあらへんわ。……ところで “先輩も” っちゅーのは?」
「…………」
「……え?」
「……おい」
「自分、まさか風羽の部屋のことやないやろな」
「いえ、お二人がお付き合いする前のことなのでセーフですよね?」
「アホか鍵かかってへんからて女の部屋入る奴がおるか?」
「千木良先輩顔が怖いです」
「大体何もしてませんし菅野さん起こしただけでやましい気持ちもありませんでしたし!」
「あったりまえやろが! ちゅーかあってもなくても入んなや!」
「……菅野さんのことになると目の色変えますね」
「あたりまえやろ」
「…………」
「千木良先輩、お誕生日おめでとうございます」
「…………」
「先輩に言うの、俺が一番ですよね?」
「……お前ほんまに最悪すぎるわ。
 それ、昨日の流れ分かった上で言っとんのやろ?」
「ええ」
「菅野さんが “日付が変わった瞬間に千木良先輩におめでとうございますを言いたい” と言って、米原先生が “とりあえず朝一でにしなさい” とたしなめた流れは覚えてますよ」
「お前、風羽に悪いと思わんの?」
「まあ多少は」
「あ、でも今のは俺だけからの嫌がらせじゃないですよ?
 菅野さん以外の皆の総意です」
「…………」
「……自分らおかしいやろ」
「まあ、確かに頼まれてもないのに二人の為に動いたこともあるし、
 色々口出しもしましたよ」
「でも誰も寮まで一緒にいろとは言ってないじゃないですか。
 お陰で気が休まりませんよ」
「広瀬くんは殴られたいのかな?」
「まあいいじゃないですか。
 先輩はこれから末永くずっと菅野さんに言ってもらえるんだし」
「…………」
「それにひがんではいるかもしれませんけど、別れて欲しいとも思ってませんし」
「なんで」
「だって、菅野さん毎日嬉しそうじゃないですか」
「…………」
「千木良先輩! ……おや、広瀬くん」
「おはよう、菅野さん」
「おはようございます。……おお、もしかして私は二番手ですか?」
「ううん。一番。ほら、言ってあげなよ」
「はい。千木良先輩、お誕生日おめでとうございます」
「…………」
「? 千木良先輩?」
「……おお」
「何やら複雑そうなお顔をされておりますが……」
「照れてるんだよ菅野さん。汲んであげて」
「! なるほど、失礼いたしました。それでは私は朝食の手伝いをして参ります」
「…………」
「広瀬」
「早く談話室行きましょう? きっとみんなニヤニヤしながら先輩を見てくれますよ」
「お前ら性格悪すぎやろ」
「いや、先輩には負けます」
「……覚えとき。お前らの誕生日にたーっぷりお返ししたるわ」
「千木良先輩、顔が凶悪犯です」
END.

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