「よし、七夕だ!」
「はあ」
「なんて気のない返事!!」
「七夕がなんだってんだよ」
「お前らロマンってものがないなぁ。はい、空閑。七夕ってどういう日?」
「短冊にお願いごとを書く日、ですか?」
「間違いじゃないけど欲しかったのはそれじゃない!
 空閑だけは信じてたのに! 女子力高い空閑だけは!!」
「え……」
(短冊に何か書くのは七夕当日じゃない気もする)
「おい先生、コイツは別に女子力は高くねーぞ。
 どっちかってと法月先輩の方が高い」
「そんなことないもん!」
(女子力の擦り付け合い……)
「お前ら、我が寮唯一の女の子である菅野のこと思い出してあげて……?」
「言い出したの先生ですけどね」
「あ、でも菅野さんの場合は『女子力(物理)』って――」
「空閑、皆まで言うな」
「え……?」
「ところでなんで七夕って短冊にお願い事を書いて笹につるすの?」
「さあ……織姫と彦星が年に一度会えるから大盤振る舞いで他人の願い事叶えてくれるんじゃないんすか?」
「すごい! 人の面倒が見れるほど余裕があるんだね!!」
「空閑……」
「えっ……?」
(というか、願い事ってあの二人が叶えるのかな)
「ねえねえ、ミサキちゃんのこと皆忘れてない?」
「忘れてます」
「何で今まで沈黙してたのにツッコミだけは速いの……!!」
「で、七夕がどうしたんです?」
「うん。どんなにきついこと言っても広瀬だけは俺に構ってくれるって信じてた!」
「ミサキちゃんって『広瀬だけ』とか言いながら、スガちゃんにもそういうこと言うよね」
「えっ、予想もしてないところから砲弾が発射されてきたよ?」
「先生酷い……」
「えっ……」
(話進まないなぁ……)
「先生腹減ったんすけど」
「…………」
「という訳で、七夕だ! 年に一度織姫と彦星が会える日だよ☆」
「あ、強引に話進めた」
「男って言うのはな、自ら道を切り開くもんなんだよ」
「ところで七夕って地域によって七月七日じゃなかったりするけど、あれってどうなんだろうね」
「? どういう意味、ですか?」
「例えばAの地区では七月七日で、Bの地区ではその他の日だった場合、総合したら年一回って謳ってるのに実質二回会ってるよねって」
「そこは見逃してやれよ」
「旧暦が関係してるんでしたっけ」
「あ、じゃあ解決案。Aの地区の織姫と彦星は山田さんで、Bの地区の織姫と彦星は田中さんつーのは?」
「ああ、違うってこと? 人が」
「そう」
「そんな馬鹿な」
「でも……雨が降ったりすると、会えなくなっちゃうから、可哀想だよね」
「幼稚園の時とかこういうこと言う奴結構いたよな」
「うん、誰しも一度は考えるよね」
「大丈夫だよ空閑くん。
 例え日本に雨雲がかかってても、世界のどこかは晴れてるから」
「というか雨雲は地球だけにかかってると考えれば、彼らがいるの宇宙空間っぽいし問題ないよ」
「あ、そっかぁ!」
「そういう問題か?」
「ロマンがないよねー、広瀬ってば。現実的過ぎるんだよ」
「えっ……」(さっきまで田中さんとか山田さんとか言ってたのに……?)
「つかあの二人って宇宙にいんすか?」
「そうなんじゃないの? 天の川隔ててあっちとこっちって言うんだから」
「宇宙人、なのかな」
「えっ……?」
「だって、家の近くに天の川があるんですよね?
 地球に住んでて、同名の川があるんじゃないですよね?」
「あー、そっかぁ……どういう種族なんだろうね。
 宇宙服一切着ないで生活してるっぽいし」
(法月先輩的には、宇宙人という存在を持ち出してくるのはロマンに反さないのかな……)
(……いや、そういえばオカルト系が好きだったから、宇宙人もロマンなのかもしれない)
「まあ、神的な存在かもしれないし」
「あとさ、あとさ」
「なんだよ」
「さっき葉村くんが言ってた方式で考えると、織姫の集落と、彦星の集落があるって、ことになるよね」
「えっ……?」
「ほら、地域によって、七夕の日程が違うって話、だよ。田中さんとか、山田さんとか」
「ああ……まあ、確かにな」
「あ、でもベガとアルタイルだっけ? 織姫と彦星になぞらえてある星って」
「その二つしかないなら、やっぱり田中さんとか山田さん方式とは違うのかも」
「それだと、もっと沢山星がないと、いけませんもんね」
「あー……」
「そうなるとさ、俺の疑問は解消しないんだけど」
「…………」
「…………」
「……おとなしいですね、先生」
「……うん」
「……何か反省点はありますか?」
「……今度からは、七夕の正しい知識を引っさげてからお前らに願い事書かせる」
「お疲れ様でした」
END.
「戸神先輩」
「なんだァ? なんか用か?」
「いえ、特に」
「そォかァ」
再END.
「戸神先輩と風羽ちゃんの会話酷い! 無理やり登場させた感が満載!!」
「言うな言うな。登場させるってことで全員出す義務を解消させようとしてるんだから」
「お前も言うなよ、そういうこと」
再再END.
「ところで天の川ってのは氾濫しないのかねェ」
「さあ」
「川かぁ……久しぶりに藻々川で泳ぎたいね、一陽」
「昔みたいに綺麗になったらな」
再再再END.
【月蛙寮・生徒願い事一覧】
:カエリーナタンの素晴らしさがもっと広まりますように
:葉村くんがカエリーナタンをごり押ししてくるので、葉村くんがカエリーナタンの存在を忘れますように
:家内安全無病息災
:願い事が全部叶いますように!
:生徒が今年も健やかでありますように
:あぶり出しらしく判読不可
:皆さんの願いが叶いますように

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