第三回 : ひめひび1.5 (※第二話)
▼ 新たな決意と広がる不安
『学園の紅一点としての生活をもうしばらく楽しんでおくれ!!』
楽しんでくれって……そんなの勝手だよ……
あたしは信じてたんだよ……
夏休みが明けたら天城寺学園に女子生徒が増えることを……
それなのに、女子一人の生活がまだ続くなんて急に言われたって……
…………あたしは…………
…………あたしは、どう思ってるの…………?
……………………
…………
……
【 恋 】 「………………」
【???】 「ぐっすり眠ってるね。さしずめ、『眠れる森のおひめ様』といったところかな」
【???】 「確かにその言葉は今の彼女にぴったりですね……って、先生?」
【???】 「柏木先生! 恋様になにをしようとしているのですか!?」
【???】 「なにって、いつまでも眠っているおひめ様に、目を覚ましてもらう魔法をね……」
なんだろう……。頭の上で声が聞こえる……
【???】 「そ、それってまさかキ------!!い、いけませんっ!それだけは絶対にダメです!!」
【???】 「やだな本気にしちゃって。ただの冗談だよ」
【???】 「先生の場合は冗談に思えませんっ!」
【???】 「僕も夏八木くんと同じ意見ですね。日頃の言動を考えると放っておけませんよ」
【???】 「あらら……珍しく尚仁くんが怒ってる。やっぱり、彼女のことだと本気になっちゃうんだね」
【???】 「ッ! そういうことじゃなくて!」
【???】 「………………」
【???】 「アタタタッ! 冗談だって言ってるだろ忍!警備部のお前は手加減しないから勘弁してよ!」
この声は……尚仁先輩に光くん……
それと……柏木先生に月元さん……?
あれ……先輩と光くんはさっきまで一緒だったけど……どうして先生たちが?
……ううん……そうじゃなくて……
真っ暗なのに、みんなの声が聞こえることが変なことで……
【 恋 】 「……う、うぅ……ん……。あれ……あたしどうしてベッドに……?」
重いまぶたを何とか開けて周りを見回す
そこに飛び込んできたのは、心配そうな顔をした光くんと尚仁先輩
【 光 】 「恋様! お目覚めになられましたか!? 気分はどうですか!?」
【 尚仁 】 「相崎さん僕がわかる? どうしてベッドで寝てるか覚えてる?」
【 忍 】 「! !?」
【 恋 】 「え、えーっと……」
【 林斗 】 「二人とも少し落ち着いて。彼女は起きたばっかりなんだから、そんなに話しかけるものじゃないよ」
【 林斗 】 「心配なのはわかるけど、ここは保健医でもある俺に任せてくれない?」
【 尚仁 】 「柏木先生……。お願いします」
【 忍 】 「………………」
【 林斗 】 「あと忍。黙ったままじゃなにもわからないよ。サングラス外してくれば?」
【 忍 】 ブンブン
【 林斗 】 「……俺が悪ノリするかもしれないからここで見張ってるのね。ま、好きにして」
【 林斗 】 「さてと、それじゃ診察といきましょうか。恋ちゃん、こんばんは」
【 恋 】 「林斗先生……。どうしてここに?」
【 林斗 】 「君が倒れたって聞いて心配だったからなのと、保健医として看病するために」
【 恋 】 「倒れたって……あっ……」
そうだ……。
あたしおじいちゃんから女子一人の生活がまだ続くって言われて……
気を失ったんだ……
【 林斗 】 「倒れた理由、思い出したみたいだね。それで恋ちゃん気分はどう?」
【 恋 】 「気分は……特に悪いとかはないです」
【 林斗 】 「それはよかった。それじゃあ痛いところとかはある? ないとは思うけど」
【 恋 】 「先生が言うとおり痛いところも特には……。でも、どうしてないって?」
【 林斗 】 「君が気を失ったとき、隣にいた雅哉が倒れそうになる君をしっかりと支えて、ベッドまで運んだって」
【 恋 】 「雅哉が……」
【 林斗 】 「まったく、おいしいところを持って行くよねアイツ。おひめ様だっこは俺がしたかったのに」
【 恋 】 「えっ?」
【 尚仁 】 「……柏木先生?」
【 林斗 】 「はははは、尚仁くん今のはいつもの冗談じゃない。笑顔の下の怒りは抑えて欲しいな」
【 尚仁 】 「普段なら怒りません。でも、今は冗談をいうような状況じゃないでしょう?」
【 光 】 「尚仁様の言うとおりです! 冗談いってる場合じゃないでしょう?」
【 忍 】 「………………」
【 林斗 】 「いや、冗談言っても平気かな。恋ちゃん、特に問題なさそうだからね」
【 光 】 「! ほ、ホントですか!?」
【 忍 】 「!」
【 林斗 】 「もちろん。体をどこかにぶつけたわけでもなく、自分が気絶した理由も覚えてるなら問題ないよ」
【 尚仁 】 「そうですか……! 良かった、本当に良かったよ」
【 林斗 】 「うん。無事で良かったね恋ちゃん」
【 恋 】 「ありがとうございます。それと……心配かけてごめんなさい」
【 尚仁 】 「そんな、謝るようなことじゃないよ。女子のこと急に言われたらショックだと思うし」
【 光 】 「そうですよ。もし女子校に僕一人で生活しなければいけないことになったら------」
【 林斗 】 「女の子にモテモテで楽しいだろうね」
【 光 】 「か、柏木先生! 変な茶々をいれないでください! 僕は恋様の気持ちになってショックだと言うことを……!」
【 恋 】 「ふふっ、ちゃんとわかってるから大丈夫だよ光くん。心配してくれてありがとう」
【 光 】 「いえ、そんな……」
【 恋 】 「先輩も、月元さんも、そして柏木先生……も? 心配してくれてありがとうございます」
【 林斗 】 「疑問系にしないでよ。俺もしっかり心配してたからね」
【 恋 】 「ふふっ、わかってます。先生はイジワルするからちょっと仕返しです」
【 林斗 】 「あらら……反撃されちゃったか。でも、それが言えるならもう平気だね」
【 恋 】 「はい。女子のことは気絶しちゃうぐらいショックでしたけど……」
【 恋 】 「予想出来なかったことじゃないですし、あたしはもう大丈夫ですから!」
あたしのことを本気で心配してくれて、
支えてくれる人たちが側にいてくれるから……
尚仁先輩と光くん。月元さんに柏木先生……
そしてなにより雅哉が…………あれ?
雅哉がいない……?
【 尚仁 】 「あ、相崎さん無理に体を起こさない方が良いよ」
【 恋 】 「いえ、もう大丈夫ですから。それよりも、確かめたいことが……」
だるさが残る体を何とか起こして、部屋の中を見回す
だけど、雅哉の姿はどこにもなくて……
【 恋 】 「あの、尚仁先輩。雅哉がいないみたいなんですけど……アイツはどこに……?」
【 尚仁 】 「あぁ……。雅哉は相崎さんをベッドまで運んだ後、理事長に連れて行かれてね」
【 尚仁 】 「『お前にも大事な話があるんじゃ!』とか話してて……」
【 恋 】 「おじいちゃんが……?」
その話を聞いて、私の心は不安に揺れた
だって……あのおじいちゃんの話だよ……?
きっとまた、突拍子もないことで……あたし達を困らせるに違いない……!
なんてことを考えていたら、ノックもなくドアが開いて……
【 雅哉 】 「恋……。目、覚ましたのか……」
見るからに疲れた様子の雅哉が、ゆっくりと部屋に入ってきた
けど……雅哉はあたしの側まではこないで立ち止まる
【 光 】 「あ、僕が邪魔ですよね。今どきますから!」
【 雅哉 】 「いや……そんな気を遣わなくていいよ光。ここでも大丈夫だ」
【 光 】 「えっ?」
【 尚仁 】 「雅哉……?」
その様子に尚仁先輩も光くんも困惑してるみたいだった
【 雅哉 】 「体起こしてるってことは……ケガとかないよな?」
【 恋 】 「う、うん。覚えてないけど、気絶したあたしを雅哉が受け止めてくれたんでしょ?」
【 恋 】 「そのおかげで、どこも痛くないよ」
【 雅哉 】 「そっか……。それならよかった……」
安堵の息をつく雅哉だけど、言葉にいつもの元気がない
これは……やっぱり……
【 恋 】 「雅哉……おじいちゃんとの話って、一体なんだったの?」
【 雅哉 】 「…………聞いたのか」
【 恋 】 「うん……。起きたら雅哉がいなかったから……。それで、おじいちゃんとはなにを?」
【 雅哉 】 「…………たいした話じゃないんだ。恋は気にするようなことねーよ」
【 恋 】 「……ウソだよね」
【 雅哉 】 「な! なんでウソだって決めつけるんだよ?」
【 恋 】 「理由はあるよ。雅哉がなにかを誤魔化すときって、あたしと目を合わせないから」
【 恋 】 「今あたしと話してても、一度も目を合わせてない」
【 雅哉 】 「………………」
【 恋 】 「なんの話をしたのか……ちゃんと話してよ雅哉」
あたしの問いかけにも、雅哉は口を開いてくれない
ただ、その表情から雅哉が苦しんでることは一目でわかって……
あたしはそれ以上……何も言えなくなった……